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ドスン!
「い、いてっ」
右肩を強く打って、タケルは目を覚ました。夢の中で、敵の一人がタックルをかけてきたので身をかわそうとして、ベッドから落ちたのだった。こんな悪夢は久しぶりだ。全身汗びっしょりだし、肩は痛いし、何ともさえない目覚めだ。
しかも時計の針は8:00を回っている。「なんで誰も起こしてくれないんだよお」と思いながら、慌てて着替えを済ませ、リビングへ。普段なら、父リョウイチも母カオルも、まだコーヒーを飲んだりしている時刻なのに、今日は誰もいない。犬のロビンが、知らん顔してドッグフードを食べている。仕方なしに冷蔵庫を開け、チェックの厳しい姉ミカがいないのをいいことに、パックからそのまま牛乳を飲む。
「じゃ、行ってきまーす!」
「……………」
「バイバーイ」
「……………」
いつもなら、エージェントロボットが「タケル君、イッテラッシャイ!」とか「PDAヲ忘レテマスヨ」、「傘ヲ持ッタホウガイイデスヨ、午後カラ雨ガ降リマス」などと言ってくれるのに、今朝は無言だ。サーバがダウンしたのか、音声機能が不調なのか。いずれにしても、こんなことは初めてだ。
悪夢でベッドから落ちるし、家族はみんな先に出掛けているし、有能なエージェントロボットは壊れている。「今日は何か変だ。調子くるってる……」。コミュニティースクールへの道を急ぎながら、タケルは思う。
案の定、コミュニティースクールでも不調は重なった。国語のテストは32点だし、委員の選出では一番なりたくなかった「美化委員」に決まってしまう。「ジャングルを探検する」というバーチャル学習では、バナナの皮で滑って転んで、みんなに大笑いされた。ゴリラにまで。
ダメ押しの最強必殺パンチを食らったのは、放課後。ひそかに「両思い」だと思っていたアユミちゃんが、タケルの親友のユウタと二人で楽しそうに帰って行くではないか! 完全に打ちのめされた。ノックダウン。
二人の後ろ姿を遠く見つめながら、ひとり、トボトボと川沿いの道を歩く。
「チェッ、こんなのってアリかよ。ついてないったら、ついてない。今までの人生の中で初めてだね。9年間も生きてきたけどさ……、えっ? あれ? ちょっと待てよ。今日ってたしか10月10日だよね。ってことは、ボクの誕生日じゃん!!」
そう、人生最低のこの日は、タケルの10歳のバースデーだったのだ。