
『空想家族ものがたり』は、ユビキタスネットワークがもう当たり前のものとなった201X年に暮らす、ある家族の架空のストーリー。全員が、ネットワークやさまざまな情報端末を駆使して、新しいスタイルのコミュニケーションを楽しんでいます。
【登場人物】
父:リョウイチ/アパレルデザイナーとして活躍している
母:カオル/地域の緑を守るNPOで働いている
長女:ミカ/新しいものが好きだが古いものも大切に思う女子高生
長男:タケル/バーチャル学習の盛んなコミュニティースクールに通う
梅雨入りを思わせるような雨が降り続く日曜日。
窓から見える公園の緑が、一段と深みを増して美しい。
父の日だというのに、主役のはずの父、リョウイチは、海外からのお客さまのアテンドで朝からお出かけ。長男のタケルも、バーチャル課外学習でコミュニティースクールへ。
「ねえ、やっぱりネクタイという線はないかしら」
「当たり前過ぎるよ。パパ、職業柄うるさいし。去年は何をプレゼントしたっけ?」
リビングルームでは、母カオルと長女ミカの二人がeテーブルをはさんで向かい合い、父の日のプレゼントを何にするかで論議の真っ最中。
「わたし、パパの好きなベトナム料理つくろうかな。ほら、こんな感じどう?
ママ」
ミカがeテーブル上の魚の形をしたアイコンにタッチすると、あらかじめ集めておいたベトナム料理のレシピとでき上がりイメージが画面に浮かぶ。
「おいしそう! でも、パパ、何時に帰れるのかわからないわよ」
「じゃ、この前欲しがってたミニ盆栽は?」と、別の魚にタッチ。
二人は映し出されたいくつかのミニ盆栽を見ながら、この枝振りはいいとか、鉢が今一つだとか、なかなか決まらない。
「どれもいいけど、なんかインパクトに欠けるよね。ちょっとタケルにも聞いてみよっか」と二人は長男にも意見を求めることにする。クラゲの形をしたエージェントに「タケルのケータイに連絡して」と指令を出すと、「OK! ちょっと待っててねー」とクラゲが応答。
数秒後、タケルの顔が画面に大写しに。
「なあに? お姉ちゃん。ボク今、バーチャル課外学習の真っ最中なんだ」