ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第131回 渡辺実さん

131 |
防災・危機管理ジャーナリスト、まちづくり計画研究所所長
渡辺実さん
|
|
|
ラジオでメンタルケアをできないか?
- 渡辺
僕は、阪神の震災の後、東京に戻ってきてから、NHKで夜中にやっている何度もゲスト出演していた『ラジオ深夜便』で、やってみたんです。震災の特別番組をずっとやっていましたが、やることがなくなってきて、相談を受けたので、僕は「これは可能かどうか分からないけど、避難所に行くと、聴いているかどうか分からないけれども、被災者の多くがイヤホンを耳に入れている。で、たぶんラジオを聴いている。聴いていなくて寝ているのかもしれない。でも、あのイヤホンにメッセージを伝えて、災害情報だけではなくて、ラジオでメンタルケアをできないか?」って、とんでもないことを考えたんですよ。
- 佐々木
いいアイディアですね。
- 渡辺
それでディレクターに相談して、「これ、実験的にやってみよう」ということになりました。そしてメンタルヘルスの専門家に相談すると、「渡辺さん、それはとんでもない間違いだ」って言われたのね。
- 佐々木
そうですか?
- 渡辺
つまり「カウンセリングっていうのは、1対1でやる世界であって、マスでカウンセルをやるっていうのは非常に危険なことだ」って言われました。確かにね。
それで断られたんだけれど、1週間ぐらいすると、その先生から、「ちょっとやってみようか」って電話があったんですよ。
で、「これはたぶん、何か考え方が変わったな」と思って。「空間も見たい」って言うからスタジオに来てもらってね。そうしたら、うまくいくかどうか分からないし、聴いていた人がどういう反応を起こすか、そのときのフォローができないとだめだと。ある意味、彼らに言わせれば、これは非常に無責任な医療行為に近いものになってしまう。で、「そこの部分は何とかNHKでカバーできないか?」と。で、カバーできるわけがないんですよ、それは。そのときにディレクターが言ったのは、「先生、NHK神戸とかNHK大阪に苦情の電話がいっぱい入ってくるから、たぶんそこで問題が起きれば、NHK視聴者センターに電話が来ますから大丈夫ですよ」みたいな話で納得いただきました。
それで始まったんですよ。夜中に1時間ぐらいの枠を確保しました。いろんな注文がついてね。「スタジオには自分一人にして欲しい」とか「ガラスの向こうが明るいからカーテンを引いてほしい」とか。で、始まったんです。そうしたら、その先生自身も非常に落ち着いたラジオ的に良い声だったんですけれども、淡々と語り始めました。それで、神戸の被災地にそれが届いているわけですよ。そうしたら1回目の放送が終わってその同じ日の昼間、視聴者センターにクレームではなくて、「あれを続けてほしい」と。
- 佐々木
その先生は、どんなことを話されたんですか?
- 渡辺
要は、「一人じゃないよ」っていうことを言ったり、それから「話しなさい」と。「辛いことを自分の中で閉じ込められるのは、元気なときの心理状態であって」と、非常にストレートな言い方をされていましたね。決して、被災者への配慮みたいなことではなくて、「辛いんだから、それは、元気なときは自分の中に封じ込められても戦う心の力があるんだけれども、今、皆さんはそれが弱っているんだから、それを閉じ込めちゃだめだよ。話してください。話す相手がいなければ、とにかく誰か探しましょう」とか、そんなトーン、そんな内容を毎日毎日、夜中にやってくれたのね。
それで評判もよくなって、そうしたらNHKラジオは、小室等さんってミュージシャンがいるじゃないですか。彼と一緒に、「今度は被災地の中でやろう」と。それまでは東京渋谷の131スタジオから放送を出していたのに、「今度は神戸局でやろう」と。そしてNHK神戸放送局発の『震災の街角から』というラジオのレギュラー番組になっちゃったんです。
12/22
|
 |
|
|