
カルロス・ゴーン氏 |
ほかの企業にもあるかもしれませんが、日産の会計部門もまた、数年前はそこから先の行動を読み取る、という視点は持っていませんでした。つまり、どうやって数字を読んでいくのかなど、少しずつ会計のあり方も変えていかなければならなかったのです。
当初は、非常に粗削りな数字によってスタートしました。つまり、その数字の意味合いに重きを置いたわけです。その数字が合っている、合っていないということ、数字の帳尻が合う、たとえば台数と数字がコンマいくつまで明確に合っているということでなく、もう少し粗削りの数字のまま、その数字が持っている意味そのものを解釈しようとしました。そんなに精度は高くなくても、意味合いを読み込むということに力を注ぎました。
その後は1年、2年、3年と経過するごとにそれ相応の専門家を採用しましたし、単に理論的、学術的に正しいだけの会計から、ビジネスの管理のための会計に移行してきました。たいへんな作業でした。ご存知のように会計の文化というのは、どちらかというと、数字の正確さに焦点が合てられています。つまり、その数字の意味よりも、正確さが重要視されてきたわけです。しかしわたしたちのビジネスは、その数字がどこまで細かく正確かということよりも、マネジメントにとって現実的にどれだけ意味があるかということがポイントです。
これは重要な点だと思います。数字は事実を語ります。会計だけでなく、技術者にとっても数字は大切です。マーケティング担当者にとっても、設計者にとっても、数字を理解するさまざまな作業を定量化することに、意味があります。会計部門だけでなく、全社員にとって重要です。
定量化するという企業体質を受けて、それを実行するというのが次のステップでした。つまり、それを社内で実行する、使うというところにまで到達しなければなりませんでした。
99年、会社の全従業員数を把握するのに3日間かかりました。「社員数は何人ですか」と会計の人に聞く、人事に聞く、あるいは他の部門に聞くと、全部違う数字が返ってくるのです。その人数の違いは1人や2人ではなく、何万というものでした。それぞれの部門の責任者は自分の数字が正しいと確信していました。しかし、部門間で数字の認識が違うということが、あまり気に留められていなかったのです。
まず、数字は一つ、事実は一つ、ということに焦点を当てるところからスタートし、今や事態が好転しました。数字の奴隷になってはいけないと思います。あくまで数字は一つの道具であって、わたしたちの行動の裏付けだと思っています。
- 出典:
- 国際女性ビジネス会議