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金平 敬之助さん
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たったひと言で、ホームランを打った松井
- 金平
いや、私だって実行がなかなかできませんよ。一生懸命心掛けていますが……。
大リーグの話をさせてください。本にも書きましたし、先ほども言いましたが、大リーグの監督を観察していると勉強になります。トーリ監督っていう、ニューヨーク・ヤンキースの監督、あの人は、名プレーヤーの一人でありながら、監督としても成功した珍しい方です。それだけに、選手の身に心と言葉が行き届く方です。トーリ監督の話で、僕が一番好きなのは、松井秀樹選手をひと言で救った話です。入団最初の年の5月に、松井選手は極度のスランプになった。ゴロばかり打っていて「ゴロキング」とさえ言われた。スタインブレナーというオーナーが「こんな選手を採ったつもりはない」と言ったとか言わないとか。
5月にそういう状態だったのですが、6月5日にシンシナティ・レッズ戦のときに、試合前、ロッカーで着替えをしていると、打撃のコーチから「おい、監督が呼んでいるから早く監督室へ行け」っていわれるのです。で、本人は覚悟するわけですよ。「今日はベンチだぞって言われる。連続試合も途切れる。それは自分が打てないからしょうがない」と、それで通訳を連れて入っていくわけですよ。
そうするとね、トーリ監督っていうのはすごいなと思うのは、自分の若い時の打撃ホームの写真かなんか見ながら、入ってきた松井選手に向かって、「おい、この打撃ホーム、どう思う?」と言ってから、一呼吸置いて、松井選手の顔をじっと眺めてやさしく言うのですね。松井選手はもう、絶対試合に出してもらえないと思って、それを言われると覚悟していたところに、「君はね、かけがえのない選手なんだよ。試合に出さないわけにはいかないよ」って。
本当に、このたった一言ですよ。これで、松井選手はその日に119打席ぶりにホームランを打って、続けて3本2塁打を打つ。5打数4安打。それで松井選手はみごとに生き返るわけです。
本当にひと言ですよ。だから、すごいなと思いますよ。でも、それはやっぱり、じっとそれぞれの選手の気持ちを考えて、性格を考えて、そのときの言葉を選んで口にする。それを積み重ねていくから、チームの風景がよくなるのですね。
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