ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第97回 伊藤元重さん

97 |
伊藤元重さん
|
|
|
後味型ビジネス
- 伊藤
あともう1つだけ。赤福の濱田会長とある時話していて、彼が、「伊藤さん、味には3つあるって知っていますか?」って。先味と中味と後味だっていうんですよ。つまり、見て「食べたいな」と思うのが先味なんですって。で、食べてて「おいしいな」っていうのは中味で、食べ終わった後「また食べたいな」と思うのが後味で、「どれが一番大事だと思いますか?」って。もう、圧倒的に後味なんですってね。
で、そういうマーケティングを、みんな、しないんですよ。これを航空会社の方に言ったら、「確かにそうだ」と。確かに、一生懸命サービスをしても、最後に空港について、もう、お客さんは帰心矢の如しですよね。ところが、ドアが開くと、スチュワーデスが、お客さんを無視して、一生懸命、向こうと名簿を見ながら何かやっている、と。これはいかん、というような話でね。
ですから、そういう後味型のビジネスというのは、すごく重要で。ちょっと長くなるんですけど、ぜひこの話をご紹介したいんです。
吉野家の牛丼ってあるでしょ? BSEの問題が出る前は、750億売って、利益が150億、すごいビジネスモデルなんですよ。
社長と話していて、彼が言っていましたよ。大体1日に80万人くるんですって。だから、150人に1人が吉野家に来ているんですけど、何が大事なんだって聞いたら、「お客さんを増やすことは一切考えていない」っていうんですよ。「じゃあ、どうしているの?」って言ったら、「店に来て食べているお客さんがいるでしょう?」と。彼が店を出る時に、「また、2日後に戻ってきてもいいな」というために、何をしなきゃいけないか。つまり、後味を非常に考えている、と。
その上で彼が言ったのは、「吉野家の牛丼と、一流の料理屋のすき焼きの違いが分かりますか?」っていうんですよ。で、「分からない」って言ったんです。すると、「吉野家の牛丼は、そこそこ、おいしい」と。で、「一流の料理屋のすき焼きは、本当においしいんです」って。「だから、一流の料理屋を先に食べちゃうと、『うまいものを食べたな。これで1年間ぐらい来なくてもいいな』っていう、精神的な満腹感ができちゃうんです」と。
私も実際、何年か前に、松坂にたまたま行った時に、松坂牛を食べたんだけど、本当においしいと思ったんです。で、終わった後、「これで一生来なくていいかな」って思いましたよね。
で、吉野家の牛丼っていうのは、そこそこおいしいっていうのは、どういうことかというと、あの牛丼には一滴も日本酒が入っていないんですよ。なぜかっていうと、日本酒を入れちゃうと、味はおいしくなるんですけど、濃厚になるんですよね。で、食べると、変な満腹感が出るんですよ。
で、あそこの松田さんっていう創業者が一生懸命考えて、信州とか甲府へ行って見つけてきた白ワインを相当大量に使って、しょうゆと一緒に煮ると、あの味になるんですって。ですから、吉野家の秘訣っていうのは、あそこで食べる人は、食べたら「もう腹いっぱいだから、ひと月ぐらい来なくていい」っていうんじゃなくて、食べたら、また午後来ちゃう(笑)。だから、そういうマーケティングっていうか、継続性みたいなもの、これは非常に大事になってくるかな、と。
23/26
|
 |

|
|