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金平 敬之助さん
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江戸時代の、うかつあやまり
- 金平
その中の一つを紹介させてください。「うかつあやまり」です。その前にちょっと言い訳をさせてください。まず私は江戸を専門に研究していません。それに、「江戸しぐさ」を語ることを江戸っ子はたいへん嫌ったのですよ。「江戸しぐさ」は語るものではない。伝承するものだ、という考えがあったからですね。だから、ここで私が「江戸しぐさ」を言うのは「江戸しぐさ」に反するのです。それをご承知のうえ、お聞き下さいね。
「うかつあやまり」というのは、例えば足を踏まれた方が先に謝るということです。自分がうかつにそこに足を出していたからいけないというわけです。踏んだ相手を責めない。これが私たちのDNAなんですね。私たちは自分が悪くないのだけど、ぶつかるとつい「すいません」って言うでしょ?
私もとっさに「すみません」を口に出しています。このやさしさにつながるのが、相手を思いやってノーはノーと言わないでノーと伝える日本人の知恵ではないでしょうか。相手を傷つけないようにいつでも言い回しを気をつけているのですね。
私は、日本の「良好な人間関係づくりの知恵」は格付けすればAAAと思っています。それに比べて、欧米諸国はせいぜいAぐらいでしょう。分からないのですよ、はっきり言わないと、向こうは。だから、欧米の人にはノーはノーとはっきり言った方がいい。欧米諸国は内乱につぐ内乱があった。うっかり相手を信じるわけにいかない。相手の心情を推し量ってという余裕がなかったから、やむを得ないと思うのですが……。
日本では「あの人は悪い人じゃないんですけれどもね」って言うのは、悪い人だって言っていることですよね。そうでしょ?
- 佐々木
(笑)確かにね。そうですよね。
- 金平
日本には「お風呂が沸きました」っていう表現がありますね。英語では何て言うのでしょうか?
「お風呂が沸きました」とは、本当はですよ、「俺が水を汲んできたんだよ、俺が薪を割ったんだよ、俺がそれを燃やして沸かしたんだよ」と言いたいところを、恩着せがましくなるので、抑えた表現したものではないでしょうか。この「沸きました」というのが、私に言わせると「あいまいな美しさ」なんですよね。たしか雑誌か何かに「お茶が入りました」というのも日本独特の言い回しだ、と書いてありました。
いずれにしましても、江戸の人間関係づくりは世界に誇るべきものです。こういう例を言っていると切りがないほどです。
- 佐々木
ちょっと、江戸の勉強をし直さなくちゃいけないということがよくわかりました。心が温かくなりました。
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