ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第57回 茂木 健一郎さん

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脳科学者 ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー
茂木 健一郎さん
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ソニーで研究する面白さ
- 佐々木
ソニーコンピュータサイエンス研究所に入って本当によかった、面白いopportunityがたくさんある、とホームページに書かれていましたが、どんなところが面白いですか?
- 茂木
ぼくはあらゆる研究機関を経験してきているんですよね。大学、それから理化学研究所、公的な機関がやっているところも。それからもちろん外国の大学も経験してますし、それから今、半官半民というのは変だけれど、半分東工大に研究室があって。
ソニーのユニークなopportunityというのは、研究がいろんな未来を具体的に変えるようなことに結びつく可能性があるということですね。つまり、大きく言えば、たとえば、出井さんが言われたようなクオリアっていうブランドなんかがひとつの例だったんですけれど、まだこれからひと山ふた山あるだろうと思ってまして。
なぜかと言うと、ソニーのミッションのひとつというのは、おそらくハードとソフトの融合なんです。つまり、ハードウェアを作って売っているのと同時に、ミュージックとかピクチャーズとか、ああいういわゆるソフトウェアとかコンテンツを作っている、と。それをどう融合するかというのは、まだ見果てぬ夢というか、どこもまだ成功していないです。完全な形では。そのポテンシャルを生かしきったところってまだないわけで、それは極めて面白い問題なんですよ。脳科学的に見ても。
なかなか研究で忙しくてそこまでいけないんだけれど、ぼくの役割はきっと、新しいコンセプトを出すところまでだと思うんですね。クオリアが出井さんによってソニーのブランドになったような形で、何かコンセプトが出せる可能性があるかなあって言っていて、それが面白いですね。そんな面白いこと、世の中にないですよ。だって、具体的な商品やサービスになって、世の中に出て行くわけですからね。
それからソニーほど、ある意味ではユニークな企業文化を持っているところはないと思いますね。いい意味でアメリカ的というか、日本離れしてるというか。さっき言った個というのが、やっぱり一番立っているというか。
ソニーの人がシェアしている価値観というのがあって、それはとにかく、どんな物事でもなるべくポジティブな方向を見ようということですね。これが、いろいろな企業の方とか組織の方としゃべるときに、一番違うことなんですよ。たとえばITについても、ITっていろいろと悪い、ネガティブなことがあるじゃないですか。最近はいろいろな研究会とかでITの話をすると、「いやあ、ITで人々の創造性が奪われている」とか、後ろ向きの話をする人がいっぱいいるわけです。「もっとリアルな体験がなくちゃいけない」とか。
でもわれわれは、ここではむしろITに後ろ向きなことがあるかもしれないけれど、そういう話はしない。つまらない。もっとポジティブな、要するに、もしネガティブなことがあるんだったら、それをどう乗り越えればいいのかっていうポジティブな話がしたいという価値観があるわけですね。
それは、その研究所も、ソニーも、おそらく共有していることだと思うんですよ。それは、一般の、日本の組織の中では、必ずしもどこでもある文化ではない、というふうな印象がありますね。
- 佐々木
茂木さんがクオリアの問題を解決していかれるのを楽しみにしています。本当に面白かった。もしも可能なら、また時々お話させてください。ありがとうございました。
対談を終えて
研究内容に興味を持ち、直感的に対談のご依頼をした後で大変有名な方だと知りました。それほど脳の働いていない佐々木にお時間頂戴し、恐縮しています。茂木さんは、少年のような人でした。研究の話をされるときの目は研究者の鋭さと少年のような興味に輝いていました。「応用科学はしていないから」と言いながら、科学者らしからぬ(?)クオリアに興味を持ち、文学を愛し、人間の不思議に対する感覚を慎重に捕らえているのです。私のような無知に付き合ってくださるなら、またいつか、ただただ、茂木さんの研究についてお話聞かせて欲しいと思いました。脳について、興味があるのです。「私とは何か」に、子どものときから疑問を持ち続けています。今回は本当にありがとうございました。
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