ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第47回 伊藤 隼也さん

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写真家・ジャーナリスト(医学ジャーナリスト協会会員)
伊藤 隼也さん
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「かかりつけ」の医師
- 伊藤
だから、そのために欧米だといわゆる「かかりつけ」、「ホームドクター」を自分でもっているのですが、日本は、なかなかそのホームドクターが……。
- 佐々木
よく「かかりつけは誰ですか」って学校からも聞かれるけれども、近くの小児科医を書いています。それほど、かかりつけっていう感じじゃないですね。
- 伊藤
それは、日本の医療制度そのものに限界があるんです。例えばイギリスみたいに、かかりつけ医を通過しないと次のステップに進めないというのがある。イギリスはそういうふうにGP――General Practitionerと呼ばれているんですが、そういう総合診療をするドクターがいて、よほどの救急以外は、そのドクターにアクセスして、そのドクターが専門の病院に振っていくというスタイルです。
欧米ではこういうスタイルが理想と考えられていますから、日本のように、近所の医者に行く人もいるし、風邪をひいて大学病院に行く人もいるっていう、アクセスフリーなことが逆に弊害な時もあるんです。
- 佐々木
そうか。逆に誰もが自分の判断でどのレベルの病院にもアクセスできちゃうのも問題なんですね。
- 伊藤
どこにでもアクセスできるということは、幸福なことじゃないですね。むしろ、病気を見分ける、きちんとしたゲートキーパーがいれば、適切な医師や医療機関を示唆してくれるので、そういうサービスはないんです。
- 佐々木
そういう門番サービスは、ビジネスとしても成り立ちそう。
- 伊藤
もちろん、我が国でも少しずつ始まってはいますが、たとえば38度ぐらいの発熱で子どもを、いきなり大学病院に連れて行くのは、あんまり賢くないですね。他の病気にかかっちゃう可能性もあるし。
- 佐々木
そうですよね。やっぱり悩みますもの。3時間待たせて、それも重病人たちの近くで待たせることを選ぶべきかって。
- 伊藤
よく考えないと。病院は病気の住み家だから。
- 佐々木
そうでしょうねえ。だったらドラッグストアで買ってきた市販の風邪薬を飲ませて今日一晩、様子を見ようかなんて思っちゃう。
- 伊藤
そういうときにとても大切なのは、子どもをよく観察するということですね。僕も、忙しいとおざなりになりがちですが、やっぱり人と人との本質的なコミュニケーションが希薄だと、そういうものって見えないんです。
- 佐々木
そうですね、それはよくわかります。熱は低いけど、なんかちょっと様子が変だからっていって、2か所の休日診療を受けることもあるし、39.8度でも家で寝かしておけば大丈夫と思うときもある。
- 伊藤
親や家族が病人をよく見る、本当に重要なんですね。風邪の発熱なんかでも。例えば熱だけで脳がどうにかなるということは、ほとんどないといわれています。
大きな病気の時には、子どもを注意深く観察していれば、必ず端緒があるとも。今日は様子が変だとか、熱はないのになんかぐったりしている、普段ものすごく大好きな物にまったく手を出さない、とかね。大学病院なら安心だろうとか、医師は病気の専門家だから気分を害さないようにまかせておけばよい、そういうことが、さっき言ったように、お医者さんに頼りきることで自分たちの野生のシックスセンスをどんどんスポイルしているわけです。
実際に、医療過誤訴訟などでも、母親や家族の直感を無視したために、医師や看護師が大きなミスを犯したケースはたくさんあります。僕が直感を磨いたというのは、ジャーナリストとしても同じなんです。いつもハイヤーに乗って、危険な所にも行かないで、暖かいところで取材ばっかりしていると、アホなジャーナリストしか生まれないんですよ。
- 佐々木
それはそうですね、わかります。
15/23
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