ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第102回 平田 オリザさん
102
平田 オリザさん
過去の対談一覧
第141回〜
第121回〜第140回 第101回〜第120回 第81回〜第100回 第61回〜第80回 第41回〜第60回 第21回〜第40回 第1回〜第20回
「今日、夜、何を食べたい?」って聞かれるのが、本当に困って
佐々木
私が英語を学習して、短い留学に行った時に、例えばルームメートが「今日は有名アーティストが学校にくる」と。”Do you want to come?”って聞かれたんですね。それで私は、「行きたい」と言ってしまっていいのか迷った。すごく日本的に言うと、3回ぐらい誘ってくれたら、本当は行きたいんだけど、1回目から「行きたい!」って言っちゃいけないような気がして、イエスと言えずに、それ限りで。大学の学生寮に、その夜は私一人が残って、皆はコンサートにいたっていう(笑)。
平田
それと全く同じ経験を、僕は16歳の時に本当に痛切にして。全く英語ができなかったんですよ。本当に、ロサンゼルスに着いた時に、一言も聞き取れなくて。特に、西海岸の英語だから速いでしょ、巻き舌で。だから全然聞き取れなくて、「えっ?」と思って。
ただそれは、いずれどうにかなるわけですけど、一番困ったのは、ホームステイみたいに結構いろんなところで、子どもだから泊めてもらえたんですけど、その時に「今日、夜、何を食べたい?」って聞かれるのが、本当に困って。
「いや、何でも結構です」って、必ず日本語だったら言いますよ。「何を食べたい?」って言われて、「肉」とかっていう日本人は、まずいないんだけど、そうすると、もう、そのボキャブラリーがないわけでしょ。
じゃあ「何でも」って、何て言うんだろうって、まず辞書で調べるんだけど、「anythingか?」って。でも、”anything”っていうのは、やっぱり、私の気持ちが全然伝わっていないっていうことが分かってきて、それを毎晩のように繰り返し聞かれるので、それが一番困りましたね。
佐々木
私も、”want”っていうことを聞かれたことが、自分にとって、初めて、自分を分析するきっかけになりました。今まで、無意識に日本語だけで暮らしていた時には、あまり深く分析しなかった、明確にしないで済んだことが、英語で話そうと思ったとたんに、自分自身が、これがほしいから、こうしたのか、何なのかを、よく考えるようになって。自分の思考や心の動きの論理を分析するようになった。私が英語から学んだ何よりの利点だったように思うんです。
平田
僕は、そういう経験を1年半ぐらい旅行の中でして、その後、ICUに入ったので、徹底的に英語漬けを1年ぐらいして。その後、大学3年から4年にかけて、1年、韓国に行っていたんです。
9 /31