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平田 オリザさん
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「伝えたい」というモチベーションは、「伝わらない」という経験からしか生まれないんです
- 平田
これは子どもの責任じゃないんですね。言語っていうのは、必ず省略する方に変わっていくので。でも、それは年齢を経るごとに、文章じゃないと伝わらない他者っていうものと会うことによって、文というものを手に入れていくのが普通の言語の発達なんですけど、それがなかったら、いつまでたっても単語でしかしゃべらないんですよ。
- 佐々木
どのぐらいの年齢の時に、他者との出会いがあるといいとかって、あるんですか?
- 平田
それは、発達段階において常にないとダメなんだと思うんですね。前の大学では演劇を直接教えていましたから、劇作家志望とか演出家志望の子もいて。おもしろかったのは、劇作家の話をしていて、いろいろ「こういう劇作家もいます。この劇作家は、こんな人生です」とか、ずっと話していたら、劇作家志望の女の子が来て、「でも、私は、本当に親も兄弟も大好きで、全くお金の苦労もしたことがなくて、こんなんじゃ劇作家になれないと思います」って言ってね。
でも、そうじゃなくて、例えば、子供は大体1歳ちょっとぐらいで言葉をしゃべるようになるわけですけれども、その時に、ママとかパパとかって言葉を先にしゃべりますよね。それは、言葉をしゃべるってことは、何かを区別することですよね。これを机と呼ぶってことは、これは机で、あの箱は机ではないっていう風に区別するっていうことですよね。
パパとかママって言うっていうことは、たぶん、パパやママと自分が違うってことを、子どもは無意識に認識するっていうことで、他者を発見するっていうことなんですね。だから親は「しゃべった!」って言って皆喜んでいるけど、子どもは、もしかしたらすごく寂しいかもしれないですね。それまでは、もう、地続きだったはずなのに、それが、違う……。
- 佐々木
自立の始まりなんですね。
- 平田
たぶん、その寂しさを恨みがましくずっと覚えている人間が、僕は、芸術家になると思っているんですね。
その孤独とかは、とても大事なことで、でも、それは芸術家だけではなくて、孤独とか、孤立とか、通じないということが、僕は大事だと思うんです。
伝える技術だけを、今、一生懸命に教えようとするんですね、スピーチとかディベートで。でも、伝える技術を身につけるためには、「伝えたい」というモチベーションがなきゃダメで、「伝えたい」というモチベーションは、「伝わらない」という経験からしか生まれないんです。この、「伝わらない」という経験が、もう、決定的に欠如しているんですよね。
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