バーキンと聞くとすぐ、バッグが思い浮かぶという方も多いかもしれません。エルメスがある女性のためにバッグをつくったという話は有名ですが、その女性こそ、幅広い年齢層の女性たちのカリスマ的存在、ジェーン・バーキン。
17歳で女優デビューして一躍脚光を浴び、60年代フランスの奇才セルジュ・ゲンスブールとの伝説的な恋、デュエット、センセーショナルな映画の共演……。ゲンスブール亡き後、悲しみのあまり、一度はマイクを置いて、作家や人道主義的な活動に専念したものの、98年には音楽活動を再開。澄んだ繊細な声を再び聴かせてくれるようになりました。
そして、2004年3月31日。世界の著名アーティストとのコラボレーションによるデュエット・アルバム『ランデ・ヴー/Rendez Vous』をリリース。ブライアン・フェリーやシャンソン界の大御所フランソワーズ・アルディをはじめ、人気実力ともにトップクラスの豪華アーティストが名をつらねています。そして、日本からは井上陽水が参加しているのです。
オープニング「私はジェーン」は、フレンチポップ&ロック調でありながら日本的なビートも楽しめる曲。また、70年代のロックミュージシャンが東洋の神秘世界に迷い込んだような「イン・エヴリ・ドリーム・ホーム・ア・ハートエイク」は、ブライアン・フェリーの哀愁を帯びた声とジェーン・バーキンのフワフワと軽やかな声とのデュオに、あやしく不思議な味わいが。
哀愁をたたえた美しい声で語り掛けるように歌う「ストレンジ・メロディ」、フレンチミュージック界の偉才クリストフ・ミオセックとジェーン・バーキンの掛け合いが成熟した男女の恋を思わせる、「恋の真似ごと」。まるでドラマチックでなフランス映画を見ているような気分に。また、ひときわ若々しくかわいらしい声が聴けるのは、フランソワーズ・アルディとのデュエット曲、「時をこえて」。二人の女性の年齢を超えた歌声、どこかはかなげで初々しさを失わないヴォイスに聴き惚れてしまいます。
そして、井上陽水との共演は「カナリー・カナリー」。これは陽水自身の楽曲「カナリア」を、新たな歌詞とアレンジにより、リメイクしたもの。アーティストは繊細なカナリアのような存在なのではないだろうか、という陽水の話にインスパイアされたというジェーン・バーキンたっての希望により、この夢の共演は実現しました。カナリアのように悲しげでひたむきな彼女の歌声、そして陽水の日本語のモノローグも静かに美しく。ボーナストラックには、「カナリー・カナリー 〜 東京ヴァージョン」が収録され、ジェーンの高音と陽水の低音がいっそう切ないデュエットに……。
アルバム全体が、まるで極上のフランス映画のようです。それぞれにシーンがあり、ドラマがある。ヒロインはいつもそこにいて、その世界に相手役であるリスナーを引き込み、魅了する。それは、歌手、女優、モデル、作家であり、三人の才能溢れる娘の母親であり、恋に生き、60になろうとする年齢の今もなお、輝き続けるジェーン・バーキンの人生そのものかもしれません。
●ジェーン・バーキン 『ランデ・ヴー / Rendez Vous』
TOCP-66272 ¥2,548(税込)