言葉のみならず、体全体を使って相手に気持ちを伝えてこそ、互いに満たされるコミュニケーションを確立することができます。
『ヴォイストレーニング』では、講師に迦樓羅舎(かるらしゃ)代表で俳優の丹下一さんをお迎えし、「声による表現」のスキルアップに取り組みました。
■「声の表現」を体全体で覚える
受講者の方々が輪になって座り、自己紹介から講義は始まりました。受講者のみなさんがリラックスして講義に臨めるよう、この時間だけのオリジナルの名前を各自自分につけました。
さっそく、「声の表現力をアップさせるためには、声楽のように声だけを鍛えるのではなく、体のチューニングから始めましょう」という丹下さんの一声でストレッチ開始。「体のゆがみをとることで、声がまっすぐ出るようにするのです。上から引っ張ってもらうような感じで伸びをして、息を吐ききって戻したとき、自然に呼吸が入ってくるようになればベスト」と丹下さん。
ストレッチを通して、自分が一番気持ちがよいと感じる瞬間を見つけたら、次は何と尻相撲。相手に押された時、無意識に丹田に力が入ります。その感覚を体で覚えることで、意識的に丹田に力を入れ、エネルギーを集中させることができるようになるのです。
次に、そのエネルギーをパワーに変えて相手に伝えてみることに。輪になって順々に隣の人に向かって、片足を踏み出すと同時に「ハーッ!」と一声かけ、パワーを渡すように両手を差し出します。繰り返していくうちに会場の空気は熱くなり、丹下さんがニューヨークで学んでこられたという『ボツワナの歌と踊り』を引き続き楽しみました。円になって歌い踊りながら、リズムに合わせて各自が思い思いに決めのポーズを入れます。周りの人の動作の変化を瞬時にとらえ、自分が行う次の表現を考えたり工夫したりすることによって、表現の幅を広げることができるのです。
■「語る」エクササイズ
今までの時間で体感したことを活かしながら、『平家物語』の『壇ノ浦の合戦』の抜粋の音読にチャレンジすることに。馴染みのない古文を読むことで、自分の発声の癖を発見でき、物語のハイライト部分を取り上げることで、呼吸の切り替えのトレーニングができるというのです。頭の上から、さらに足の裏からも引っ張られている感覚を意識した姿勢で丹田を締めて心を落ち着け、自分の言葉を相手に染み込ませていくように、まっすぐ声を発するのがポイント。照れがあった受講者のみなさんの音読が、姿勢や目線などについての丹下さんからのアドバイスを受けながら、豊かになっていきました。
また、特に意識してほしいこととして丹下さんが強調されたのが、「意識のスピードを速くする」ということ。一つの言葉を発した時点で次に発する言葉を考えはじめることによって、次に発する言葉に込められている「本当に伝えたいこと」を相手に伝えることができるというのです。「意識のスピード」が遅いと語尾上げになってしまい、大切な言葉が自動的に小さく発せられてしまいます。そうならないために、言葉を発しながら心の中では次の言葉を選び、気持ちではなく呼吸の切り替えをしてから次の言葉を発するようにとのことでした。
最後に軽くストレッチをし、講義は閉会しました。
日常会話でも「意識のスピード」を高めることに努め、言葉の往還の楽しさを感じることができるようになってほしいと丹下さん。その楽しさを知ることが、相手の実りあるコミュニケーションにつながるのでしょう。