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イラク攻撃、「大義」の行方(2003年6月14日)
大人の外交の実現はあるのか
今回のイラク攻撃のプロセスを見ていて、最も印象的だったのはヨーロッパ諸国の外交の巧みさです。世紀が変わるごとに地図が塗り替えられてきたヨーロッパの歴史は「国盗り合戦」の歴史とも言えるわけで、長きにわたって、一つの大陸の中で、文化を育みながら、領土を奪い守り、生き残ってきた国々というのは、実にしたたかな外交を繰り広げるものなのだなと感じさせられました。
たとえばフランスは、戦争反対という国内世論の後押しを受けながら、イラクに対する軍事攻撃反対という方針をアメリカに、そして世界に表明し続け、その態度を変えることはありませんでした。これは、世界で唯一の超大国アメリカの独断専行をけん制すると共に、国際社会における自国の存在感をアピールするという面から見ても、その効果は十分発揮されたものと思われます。
フランスにとって石油の利権が実は一番大きな問題であったとしても、彼らはそれに触れることはありませんでした。自分たちは、ただアメリカに追従するのではなく、あくまでも自分たちの正義と判断でイラク問題に対処するのだというフランスの姿は強引なアメリカとは対照的にスマートで冷静な印象を与えました。イラク攻撃に加わることもなければ、イラクに味方をするわけでもない。
さらにイラク攻撃終了後、マスコミでは米仏の対立は深刻と言われたりしていますし、たしかに両国の間にぎくしゃくしたものがあり、特にアメリカは今回のフランスのやり方を苦々しく思っていることでしょうが、この二国が本当に相手国に致命的な打撃を与えるような衝突を起こすとは思えません。フランスはそんな「国益に反する」ような愚かなことはしないでしょう。
ドイツ政府にしても、自国の政策を鮮明に表し、終始一貫、その態度を貫いて国内世論と一体になり、国際社会の理解も得、アメリカの不興はかったものの、フランス同様、アメリカとの決定的な亀裂は回避しています。
鎖国、島国、戦争が国内外にもたらした悲劇……。歴史的、地理的他、さまざまな要因が幾重にも重なって、サミット参加国にもかかわらず、いつまでたってもアメリカ頼みの外交を繰り広げる日本。いつまでたってもアジアとの関係がぎくしゃくしている日本。「アメリカの出方にかかわらず、日本はこうします」が戦後60年近くたっても言えない日本。
日本が自立するためには「軍備増強が不可欠」という意見がありますが、本当にそれだけで、日本という国は諸外国と渡り合っていけるのでしょうか。ヨーロッパのしたたかで抜け目のない外交戦術を目の当たりにし、今さらながら日本の他国との関係の築き方の不器用さや、外交交渉を自国に有利に運ぶ手腕、国際社会へのアピール、自分の意見を持ち、それを世界へ表明していく自信と勇気の欠如を痛感しました。軍事強化の議論も結構ですが、外交のできる集団に成長していく方策を立てていかないことには、日本の自立や真の国益につながる大人の外交の実現は遠いのではないでしょうか(匿名)。
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