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第8回 西本智実さん
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主席指揮者の孤独 |
西本 |
組み立てているときに、自分の曲に対する愛情だとか、指揮者の持つカラーが入っていくんです。このときの作業は一人の仕事、イメージトレーニングです。電車に乗っているときなど、いつでもいいんですよ。隣の人は、わたしが一人で「フーン、フンフン」なんてやっているから「この人、何しているんだ」なんて思っているでしょうけど。 |
進藤 |
時間にすると、どれくらいかけてらっしゃるかんじですか。 |
西本 |
気が向いたときはずっとやってます。 |
進藤 |
ほとんどずっと、ですか。 |
西本 |
こんなことばかりずっとしているから、音楽をしている人には、変な人が多いのかもしれない(笑)。友だちと話していても、急に思い出してフン、フンってこともありますし。 |
進藤 |
たえずグルグル動いている西本さんの頭の中をちょっとのぞいてみたいような気がしますね。すべての楽器の、すべての小節が頭の中に入っているんですか? |
西本 |
それぞれ、このセクションはこんな感じでとか。それを合わせると、全部でどうなるとか結構、覚えられるんですよ。趣味なんです。 |
進藤 |
西本さんの中での、いわばそういうイメージトレーニングが終わると、奏者のみなさんと集まって実際に音を出すんですね。 |
西本 |
それが2日から4日しかないので、自分一人で作業している時間がとても長いことになります。 |
進藤 |
たった数日なんですか。短い時間での勝負なんですね。
頭の中で描くことと、それに近づける作業と全く違う作業ですよね。思う通りにいかなかったら、と不安になることはありませんか? |
西本 |
わたしが一番ナーバスになるのは、練習の前日です。これはどこのオーケストラとでもそうですが。前の日には、必ず「もう辞める、お母さんわたし、もう辞める」って言ってますね。 |
進藤 |
本番前日よりも合同練習の前日のほうが、なんですか。今年日本人としても女性という立場でも異例の主席指揮者になられました。その前後で変化はありましたか? |
西本 |
全然、違います。主席指揮者ともなると、ものすごく強くなります。子どもを産んだ女性は強くなるって言いますよね。あんな感じなんでしょうか。「この子たちのためになら」ってふんばりがききます。 |
進藤 |
いわば一家の長ですものね。という感じでしょうか。人事権などもまかされるんですか? |
西本 |
人事権があるのは主席指揮者だけではないんですが、楽団長とオーケストラの代表、それと芸術監督で決めます。だから、特定の人とは付き合えない。距離を置いて話しています。
今まで何回ものコンサートをいっしょに乗り越えてきた仲間に、「辞めてください」って言うことほどイヤなことはありません。苦渋の選択です。でも、オーケストラ全体のレベルを下げることはできませんから。 |
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